お金

 送金の方法 クレジットカード 両替


旅の費用

 旅の総費用は、1回目(450日)、2回目(500日)とも、それぞれ250万円くらいずつかかった。
 単純に一日当たりの費用を計算すると、1回目(約5600円)、2回目(5000円)でとなるが、これにはオートバイの金額や、航空運賃、船積運賃などすべての費用が含まれている。
 一日の出費は、私のような極貧にちかい状況だと、一日300kmくらい走るとして、3000円くらいだった。
 内訳はガソリン1000円(10リットル)、宿泊1500円、メシ500円という見当である。もちろん、国によってガソリン代、宿泊費、食べ物の値段に差があるので、ひとことでは言えないのだが、全体を通すとこんな感じとなる。
 先進国(欧米)ではすべてが高いので、できるだけ長く滞在しないようにしたし、費用のかかった分だけ食事を減らすという努力をしてきたので、この程度の出費ですんだのかなと思っている。この旅の実感としては、飽食の時代に育った私としては、初めはかなりつらかったが、時間が経つにつれて、身体も精神も慣れていったように思う。


お金は何で持っていくか

 ・キャッシュ(CASH)

 日本円も観光客の多いところでは十分に使えるが、やはり外貨のほうが便利なことが多いように思う。どこでも、まんべんなく通用するのはUS$だった。
 北アフリカを訪れる前には、FF(フランスフラン)のほうが便利だときいて、わざわざFFを準備していったが、US$のほうが、両替しやすかったという記憶がある。
 紙幣は当然小額紙幣を中心とする。かさばるのはしかたないが、US$1、5、10、20というのが役に立つ。手元に現地通貨がなくなったとき、US$100ではお茶も飲めないし、メシも食えない。例え、そこで両替してくれたとしても、交換レートが非常に悪いことが多いので、小額紙幣は必ず必要だ。相手にお釣りを要求するということは、すでに交渉で一歩後れをとっていることになる。
 お釣りがないと言われたら、それでその交渉は負けなのだから。


・トラベラーズチェック(T/C)

 キャッシュとともに持っていくのがT/Cだが、これもうまく使っていきたい。
 私は「American Express」「Master Card」「Bank of America」「City Bank」などのT/Cを使った。両替はどの、T/Cでも問題はなかったが、地域によっては、使いやすいとT/Cとそうでないものとがあるようだ。
 Amexはほぼ世界を通じて使えるが、このT/Cのよいところは、各地のサービスカウンターで、手紙のデポジットサービスなどを受けられるところだ。
 ヨーロッパでは、「Master」か「Visa」が良いと言われていたが、先進国でならどのT/Cもそれほど違いはないと思う。
 中南米では「City Bank」がいいと言われているが、それは中南米ではこの銀行の数が多いという理由による。
 注意したいのは、日本の銀行でT/Cを作ろうとすると、その銀行のT/Cを勧められることだ。もちろん、厳密な意味では使えるはずなのだが、世界的にはやはり名前の通りが悪い(例え東京銀行でも)。
 だから、面倒でも外資系の名前の通ったT/Cを準備した方がいい。いくらそれが、本物のT/Cでも、向こうが受け取りたくなければ、両替してくれないのだから。
 くれぐれも、どこかの奥地の銀行で、日本の銀行の発行した円のT/Cなどを両替するようなことは避けた方がよい。可能ならば何種類かのT/Cを使い分けるのがいいだろう。
 T/Cを買う際、総額が大きい場合はUS$100のT/Cが中心にならざるを得ないが、そのときでもUS$20のT/Cを必ずいれておいたほうがよい。ただ、旅の始まりなどで、どうしても大金を持たなければならないときは、US$20中心だとかなり厚くなってしまうので、高額なT/Cを持たざるを得ない。そんなときには、US$100のT/CをUS$20で再発行してもらうということも可能だ。そのT/Cを発行した銀行なら手数料なしで、崩してくれるところもある。私は常にUS$20のT/Cを5〜6枚は持っているようにした。
 T/Cを持っていて面倒なのは、使った場所、T/Cナンバーなどの管理だが、もし盗難に遭ったときには、それが重要になる。自分がいくらのT/Cを何枚持っているか、ということを常に把握していなければならないのは当然のことだ。

・送金の方法

 指定の銀行に銀行経由で送金するか、郵便局で送金してもらうというのが今までの方法だったが、私が利用していたのはクレジットカードでのキャッシングだ。
 例えばマスターカードのマークが付いている銀行に行って、カードでキャッシュで現金を下ろしたいといえばそこで受け取れる。そうすれば、日本から送金する人の手間を煩わすこともないし、とにかく早く受け取れる。そして、その金額は日本の銀行の口座から引き落とされることになる。ただし、場所によってはキャッシュは無理だが、T/CならOKということもある。
 もちろん、その方法で受け取ると手数料がかかるのだが、送金されるまでそこから動けないという、不安な日々を過ごす必要がない。それは大きい。
 ちなみに、アフリカのトーゴでもその方法でお金を受け取れた。さすがに、テレックスで照会するのに半日かかったが、それでも十分に早いと思った。

・クレジットカード

 きちんと管理さえすればクレジットカードは便利だと認めざるを得ない。オートバイの部品などの値段の張るものを購入するときや、キャッシングするときには重宝した。私の場合は大金を持ちたくなかったので、必要な金額だけを現地でキャッシングするという方法をとった。個人的には大金をもっていると不安になってしまう貧乏性なので、その方法をとった。
 思わぬところで役に立ったのは、チリで歯医者にかかったとき(チリではクレジットカードで支払うことができた)やビザを取得するときだ。
 アルゼンチンでブラジルのビザを取ろうと思ったのだが、そのときに有り金を見せろと言われた。そんな規定はないはずなのだが、日本以外の国でビザを取得しようとすると、在留日本大使館の推薦状や銀行の残高証明などを要求されることがある。推薦状はともかく、銀行の残高証明などとれっこないのである。
 こっちが困ったような顔をしていると、勝ち誇ったようにその大使館員は、 「クレジットカードでもいいよ(どうせ持ってないだろうけど)……」と言ったのだ。
『しめた!』
 そう思うと、今度は私が勝ち誇ったようにクレジットカードを取り出して見せた。オバサンは、穴のあくほどそのクレジットカードを見つめてからシブシブ、ビザを発行してくれた。そんなこともあった。
 ただ、クレジットカードで、気を付けなければならないことは盗難だ。
 それはT/Cでも同じことだが、日本人はカードの裏に漢字でサインしてあるから安心だと思いがちだが、最近は故買屋のグループにもちゃんと漢字でサインできる係がいるらしいので、気を付けなければならない。
 キャッシュやT/Cは有限の被害だが、クレジットカードの被害は無限大である。

・両替

必要なだけ少しずつ両替するというのは常識だ。たくさん両替しても再両替(再びUS$や円の外貨に両替すること)ができる国は多くないし、通過の持ち出しを禁じている国もあるので、注意が必要だ。通貨というのは原則的には(ドルやポンド、マルクを除いた)その国でのみ効果を発揮する。
 だから、「その国の通貨はその国で使いきる」というのが、大前提となる。
 陸路で国境を越える場合には、国境の手前に銀行や両替商などがあるのが普通だが、それがないときには近くにある店で替えてくれたり、怪しげな両替商というのが声をかけてくる。それらは、必ずしも公認の両替商ではないと思うのだが、そこで両替せざるを得なくなる。
 あくまでも闇両替をしたくないと思って、税関の係員に正規の両替所を尋ねても、「その辺にいる奴に両替してもらえ」と言われることがある。
 とにかく、その国の通貨はその国で使いきる。国境を越え隣の国に着いた途端に、紙切れの価値しかないお金もあるのだから。
 
※ニセ札には気を付ける
 中米、南米では、US$が力をもっていることはいうまでもない。ただ、現在も世間を騒がせているが、かなりニセ札が出回っているようで、事実私もエクアドルの首都キトにある某アメリカ系銀行で、両替をした際ニセUS$50札が混じっていた。それはどこへ持っていっても再両替してもらえず、泣き寝入りしたという苦い経験がある。
 注意しろといっても無理な話だが、US$のキャッシュを受け取る際には良く確かめて、できるだけ大きな金額の紙幣では受け取らないことが大事だと思う。
 US$1紙幣をよく見ると本物の札でさえ標準化されておらず、印刷している場所が違うと印字の位置が明らかに違っているものが多いのだ。手元にUS$紙幣を持っている人は、よく見て欲しい。
 また、私がつかまされたニセ札はたしかに精巧だったが、紙が少し厚く手触りが少し違う感じだった。虫メガネで見ると人物の顔にあるシワの線がつぶれていた。なんかおかしいと直感したらためらわずに、相手がどんなにいやがろうとその場で取り替えてもらうことだ。

・闇両替

 いわゆる「ブラックマーケット」というやつだ。自由経済の国では関係ないが、外貨の手に入りにくい国では、公定レートのほかに闇レートというものが存在する。そして、闇レートのほうが交換率が高いのだ。国の事情にもよるが、外貨の手に入りにくい国ほどその差は大きい。1987年当時、イランの闇レートは公定レートの10倍ほどもあった。これは極端な例だったが、その他の国ではあまり差はなかった。少しでも両替率がいいほうを望むなら、闇両替をすればよいが、「闇は闇」、御用になる可能性もあるので、よく考えてから利用した方がよい。